逢坂冬馬(あいさか・とうま)さんの「同志少女よ、敵を撃て」という小説をご存じでしょうか。
逢坂冬馬さんのデビュー作にして、
- 第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞
- 第166回直木賞ノミネート
- 2022年本屋大賞受賞
という偉業を成し遂げた話題作です。
アガサ・クリスティー賞の審査ではなんと5人の選考委員全員が5点満点をつけるなど、満場一致で大賞を受賞しました。
ちなみに、アガサ・クリスティー賞受賞作ですが「ミステリ小説」ではないです!
最初から最後までけっこうバチバチ戦いまくる、戦争モノの小説です!

読み始めたら止まらず、私も夢中で読みました!
ちなみにこの作品は想像力が豊かで、かつ血・暴力などのグロ系が苦手な方にはオススメしません;;
情景描写や心理描写がとても巧みで、文字を追っているだけで小説の中の世界が頭の中に広がるような小説です。
戦争モノという性質上、血・暴力などのグロ要素は避けられないので、読むときはご注意を!
この記事では
- 「同志少女よ、敵を撃て」のあらすじ
- 「同志少女よ、敵を撃て」のネタバレ
- 「同志少女よ、敵を撃て」は百合小説なのかについて
- 「同志少女よ、敵を撃て」の感想
をご紹介します♪
がっつりネタバレしているので、読む際にはご注意ください!!!
目次
「同志少女よ、敵を撃て」のあらすじ
まずは「同志少女よ、敵を撃て」のあらすじをご紹介します!
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。
急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。
自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。
「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。
母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。
同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。
おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
Hayakawa Onlineより
「同志少女よ、敵を撃て」は独ソ戦時のソ連側の女性狙撃兵に焦点を当てた小説です。
戦争で家族を失うなどして行き場をなくした少女たちが狙撃兵を志して訓練を重ね、狙撃兵となり戦場で戦っていく。
様々な苛酷な経験を重ねる中で、主人公セラフィマは「自分が戦う理由」を考え続けます。
そして物語の終盤、セラフィマは「自分が戦う理由」を確信します。
「同志少女よ、敵を撃て」は最初から最後までとにかく殺伐とした雰囲気がずっと続く作品。
ですが、狙撃兵の女性同士の友情や親愛、戦地で出会った男性兵との親睦などほっこりできるシーンもちらほらあります^^
詳細は後のセクションで記載しますが、セラフィマと狙撃兵仲間のシャルロッタとの友愛など「百合」のような描写もところどころ見られますよ!
「同志少女よ、敵を撃て」のネタバレ
ここでは「同志少女よ、敵を撃て」がサクッと分かるネタバレをしていきます~!
めっちゃネタバレしているので、ネタバレ読まずに作品を読みたくなった!!という方はブラウザバックをお願いします><
主要登場人物
- セラフィマ(主人公):ナチスドイツ兵に故郷の村を壊滅させられ、1人だけ生き残る。復讐のため、狙撃兵になる。故郷の村ではミハイルに淡い恋心を抱いていた。
- イリーナ:セラフィマを狙撃兵へと育て上げた教官。元は優秀な女性狙撃兵だったが、負傷のため教官になる。
- シャルロッタ:狙撃兵養成校でのセラフィマの同期。セラフィマと出会った当初は互いに反発していたが、後に親友になる。
- アヤ:カザフ人遊牧民の少女。猟師。狙撃兵養成校でのセラフィマの同期であり、学年一の狙撃の腕の持ち主。
- オリガ:コサックの誇りを取り戻すため狙撃兵を目指す少女。狙撃兵養成校でのセラフィマの同期だが・・・後ほど正体ネタバレしますw
- ヤーナ:狙撃兵養成校でのセラフィマの同期であり、最年長。みんなから「ママ」と呼ばれる愛情深い女性。
- ミハイル:セラフィマの幼馴染で故郷の村ではセラフィマとの結婚が噂されていた。村が壊滅させられた際には戦場に出ていたため無事であった。戦争が終わった後、セラフィマにプロポーズをしようと考えている。
- ドイツ人狙撃兵:セラフィマの母を殺害。セラフィマに復讐のため追われる。
セラフィマ、ナチスドイツ兵に村を襲われる
セラフィマが18歳のある日、故郷の村をナチスドイツ兵が襲撃・壊滅させられた。
襲撃時にナチスドイツ兵の狙撃兵に母を殺されてしまう。
唯一生き残ったセラフィマは、危うく強姦されそうになるも土壇場でソビエト軍が登場し九死に一生を得る。
村の救援に来たソビエト軍の女性兵士イリーナから 「戦いたいか、死にたいか」と詰問されたセラフィマは女性兵士に酷い挑発を受け、怒り・復讐心を抱いたことから「戦う」ことを決意する。
ここでのセラフィマの戦う動機は「母を殺したドイツ人狙撃兵を殺すこと」「母の遺体や壊滅後の村を手ひどく扱ったイリーナを殺すこと」であった。
セラフィマ、狙撃兵養成校で訓練を受ける
セラフィマはイリーナが教官を務める狙撃兵養成校に入学。
狙撃兵になるための訓練を受ける。
そこでシャルロッタ、アヤ、オリガ、ヤーナ達同期生と切磋琢磨し、見事学校を卒業。
当初は十数人いた生徒は次々と脱落し、卒業時に残ったのはセラフィマ、シャルロッタ、アヤ、ヤーナの4人だけ。
オリガは生徒と見せかけて実は潜入していたソ連の秘密警察の一員であり、イリーナや狙撃兵養成校の生徒たちの挙動を見張っていたのであった。

訓練の描写を通して、狙撃の基本や銃の種類、独ソ戦全体の状況等を学べます!
セラフィマ、狙撃兵として戦場に出る
狙撃兵養成校を卒業し、ソ連軍の狙撃兵となったセラフィマ。
イリーナを隊長として、セラフィマ、シャルロッタ、アヤ、ヤーナの4人の卒業生は 「どの歩兵旅団にも属すことなく、いずれの指揮下にも入らず、狙撃手専門の特殊部隊」として対ドイツ戦に参戦する。
秘密警察のオリガも5人の監視役として同行。
スターリングラードでの攻防やケーニヒスベルク包囲戦など種々の激戦を繰り広げる中で、セラフィマは次々に仲間を失っていく。
そして物語の終盤であるケーニヒスベルク包囲戦でついにセラフィマは、母を殺した憎きドイツ人狙撃兵への復讐を果たす。
が、物語はここでは終わらない。
「あらすじ」にあるように、セラフィマは「真の敵」を見出すのである。

ドイツ人狙撃兵に復讐して終わり!という単純な話ではありませんでした。
ラストへとつながる伏線の張り方が見事!
セラフィマの「真の敵」とは?衝撃の結末ラスト!
イリーナは狙撃兵養成校の生徒に「動機を階層化せよ」と教える。
「侵略者を倒せ」「ファシストを駆逐しろ」といった動機は敵を殺す「起点」であり、いざ戦場で敵を撃つ際には何も考えずただ純粋に敵を撃ち抜く。
動機を階層化することで純粋に敵を撃つことに集中しろという教えだ。
動機の起点にあるのが「戦う理由」
セラフィマの当初の戦う理由は「母を殺したドイツ人狙撃兵への復讐、母の遺体を侮辱したイリーナへの復讐」であった。
しかしながら、戦うにつれセラフィマは自分が持つ本当の戦う理由を見出す。
セラフィマの真の動機、それは「女性たちを守る」ということ。
このことからセラフィマは自分の真の敵が「ドイツ兵、ソ連兵関係なく女性を蹂躙する者」であることに気が付く。
ケーニヒスベルクの戦いが終わり、勝利に酔いしれるソ連兵たち。
セラフィマはソ連兵の1人ががドイツ人女性を蹂躙しようとしている様子を目撃する。
セラフィマが戦う真の動機は「女性たちを守る」。
この動機のため、セラフィマはドイツ人女性を犯そうとするソ連兵---幼馴染のミハイルを狙撃し、殺害するのであった。

戦いが終わって最後はセラフィマとミハイルが結婚してめでたしめでたし♪となるのかなぁと思って読み進めていたらなんと、、、セラフィマがミハイルを殺してしまうという衝撃的なラストシーンでした!
主要登場人物たちの結末
ネタバレ中のネタバレなので、最後に登場人物たちがどうなるか知りたくない!!!という方は読み飛ばすなりブラウザバックなりお願いします><
- セラフィマ(主人公):戦後、イリーナとともに故郷の村があった土地へ帰り、村を再建する。
- イリーナ:戦後、セラフィマとともに、セラフィマの故郷の村があった土地へ行き、村を再建する。
- シャルロッタ:戦後、ヤーナとともにパン工場で働き、工場の職長に上りつめる。
- アヤ:スターリングラード奪還戦にて砲撃を受け、死亡。
- オリガ:ケーニヒベルクでの戦い(物語の最後の戦い)でセラフィマを庇うような形で銃撃を浴び、死亡。
- ヤーナ:戦後、シャルロッタとともパン工場で働く。64歳で天寿を全うする。
- ミハイル:ケーニヒベルクでの戦い(物語の最後の戦い)の決着がついた後、ドイツ人女性を犯そうとしているところをセラフィマに銃殺される。セラフィマの「真の敵」である「女性の敵」であったからだ。
- ドイツ人狙撃兵:ケーニヒスベルクの戦いでセラフィマに復讐され、撃ち殺される。
「同志少女よ、敵を撃て」 は百合?
「同志少女よ、敵を撃て」は百合作品(女性同士の恋愛を描いた作品)なのか、気になる方もいらっしゃるようです。
「同志少女よ、敵を撃て」ではセラフィマとシャルロッタの友愛の様子が度々描かれます。
セラフィマとシャルロッタはとても仲が良く、ところどころ軽いキスシーンの描写が見られます。
ロシアでは友愛のしるしとして女の子同士がマウス・トゥ・マウスのキスをすることは良くあるそう。
また、「同志少女よ、敵を撃て」はソ連の女性狙撃兵に焦点を当てた小説です。
そのため、男女間の恋愛よりも女性狙撃兵同士の友愛が多く描かれています。

見方によっては「百合小説」の分類に入るかもしれませんね
「同志少女よ、敵を撃て」が百合と言われる理由は、
- セラフィマとシャルロッタの友愛シーン(主にキスシーン)
- 主要登場人物が女性であり、男女間の恋愛よりも女性同士の友愛が多く描かれている
ことだと思われます!
「同志少女よ、敵を撃て」の感想
読み進める中でページをめくる手が止まらず、「見事」の一言です!
描写がとても上手なので、独ソ戦はおろか戦争モノの映画さえ見たことない私でも小説内で描かれる戦況が頭の中に浮かんできました。

グロいシーンを読むのはかなりキツかった・・・
ほんわかラブストーリーが結構好きなので、無事復讐を遂げたあとは最後セラフィマとミハイルが結婚して村を再建してめでたしめでたし♪となればなぁと思いながら読んでいたのですが・・・まさかのラストに衝撃受けまくり。

衝撃ラストへの伏線であったセラフィマの心理状態の変化の描写の仕方が巧妙でした!
本当にとても良い小説なのですが、作者の逢坂冬馬さんは2022年4月に行われた本屋大賞の授賞式で
私の心は、ロシアによるウクライナ侵略が始まった2月24日以降、深い絶望の淵にあります。
このナチスによるポーランド侵攻、満州事変に匹敵する、むき出しによる覇権主義による戦争が始まったとき、私はこの無意味な戦争でウクライナの市民、兵士、あるいはロシアの兵士がどれだけの数だけ亡くなっていくのだろうと考え、また私自身が書いた小説に登場する主人公・セラフィマがこの光景をみたならば、どういう風に思うのだろうと考え、悲嘆に暮れました。
とご自身の複雑なご心境を述べられています。
逢坂冬馬さんは収益の一部を難民支援へとご寄付されているそうです。
長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!